Oguni 紳士の恋の物語〜2014 Rapha Gentlemen's Race Part-2

小国から帰ってあわただしい日常にもどって1週間が過ぎました。そろそろボクもブログ本編書かなきゃ。

facebookやtwitterを経由して,参加された皆さんの素敵な写真やブログの記事を楽しみながら,
あらためて小国で過ごした時間の素晴らしさを反芻していると,ふと不安な思いが。

ボクが何か付け足して書けることがあるんだろうかと。

ただ,去年の京都でのGentlmen's Raceに続いて2度目の参加をさせてもらって,ボクなりに見えてきた
RGR像があるので,それを書いてみようと思いました。

記録ではなく記憶を頼りに。アタマではなく心のおもむくままに...


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山の端にまだ少し朝霧が残る小国の集落から朝早く走り出してすぐ,「恋」という言葉がつかず離れず
ボクのそばを並走しているのを感じました。

「道に恋する」「恋するように走る」...そんなふうに。

なぜRaphaがこの「ツーリング以上レース未満」といったスタイルのサイクリングイベントをわざわざ
'Gentlemen's Race'と銘打っているのか,それは去年京都の北部を走ったときにもいろいろ考え
感じました。

マーケティングやブランディングといった観点から言えば,Raphaというサイクリングソフトを販売する
企業の「内外」に向けた広報活動であり,カスタマーサービスの一環であり,すごく巧みな拡販戦略の
ひとつであることは明瞭です。

ボクのようにひねくれた性格の持ち主なら,「一種の宗教的なイニシエーションであり信者囲い込みの
礼拝である」なんて言い草のひとつも浮かんでくるわけです。

けれど...

あの苔むした坂を登り,空と地平線の境い目までずっと続く草原の道を無心に走っていると,そんな
ワケ知り顔の考えがどこかに飛び去り,あるがままの景色と流れてゆく時間を受け入れ,経験したことの
ない光景をただ無心に感じている自分に微笑みたくなったのです。



それは人生も半ばを過ぎて,それなりの地位や知恵や処世術やリスク回避策や愛想笑いや冷笑や
ダブルスタンダードを身につけていたはずの自分が,思いがけなく突然恋に落ちて,あっけなく無力に
なってしまう「大人の恋」の経験と見事なまでにそっくりだから。


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そもそもGentlemen's Raceは「紳士たち」のライドであって,「青年」や「少年」の遊びではない。

そして,紳士が紳士であるのは,生きのびるために力と戦術と駆け引きを身につけてきたにもかかわらず
心優しくふるまえるから,というだけではない。

毎朝のヒゲの手入れとシャツのアイロンがけと靴の選択にぬかりないから,というだけでもない。

紳士が紳士であるのは,もはや人生の右肩が上がり続けることはないと思い知らされ,髪に白いものが
まじり,視力が落ち,毎月届く請求書を静かに受け入れるだけのアキラメを身につけているから,
かもしれない。

けれど...


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ある日突然紳士に恋がおとずれることがある。

少年でもなく,青年ではなく,もうそんな情熱とは無縁だと思っていた自分に恋がおとずれる。

少年の恋は未来への窓。

青年の恋は劇場へのチケット。

けれど,大人の恋は突然の炎。

もはや自分の中にそんな火種があるとも思わず,むしろ絶えたことに安堵していた炎。

それはときには招かざる客人。


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そして。

恋をした自分から,足元に倒れている「大人になっていたはずの自分」を見下ろすときに初めて気がつく
ことがある。

人生はこんなにも美しい。

何もかもが思い通りにはゆくわけではない,何もかもがはかない人生が。

そうして感じる美しさは剣のようであり遠い星のようであり心臓を開いて流れる温かい血のようでもある。

ただ,間違いなく,この残酷な恩寵はこの世界に生まれてきた私のただひとつの証であって,やがて
ここから消えてゆくときに心から感謝できる恵みのひとつだと誰からともなく教わっている。


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「紳士たちのレース」でサイクリストが経験するのは,そんなふうな「恋」だと思う。

もうたいていの道は走破し,よほどの峠でなければ音を上げず,向かい風のやり過ごし方も道に迷った時の
リカバリーもメカトラも「路上の日常」として受け入れる余裕が自分にはある。

そんなある日。

たとえば小国にやってくる。

緊張した笑顔の仲間たちと朝もやの中を走り出す。

苔むした坂を登り,空と地平線の境い目までずっと続く草原の道を無心に走る。

色とりどりの(けれど見事な調和の)Raphaやチームのジャージで装ったサイクリストがはるか稜線を
行くのが見える。

経験したことのない光景をただ無心に感じている自分に微笑む。


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「デジャヴュ」という言葉はない。

美しい恋にデジャヴュはない。

美しい道にデジャヴュはない。

美しい人生にはデジャヴュはない。

すべてが真新しく輝き,はかなく,やがては地上から消えてゆく。

いま一緒に走っている仲間も自分も。

その残酷さを風とともに静かに受け入れながらペダルをまわす。

この一瞬のかけがえのなさに驚きながら走る。

少年ではなく青年でもなく,紳士だからこそ見える,この世での存在の無常の美しさに身をまかせながら...


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去年,辻啓さんのガイドでイタリアへ行ってトスカーナを走ったときに,ボクは景色のあまりの美しさや
自転車文化の伝統の豊かさやその土地への彼の思いの深さを感じて,同行したみんなの背中を
後ろから眺めて走りながら涙をこぼしたことがあります。

自転車のサドルの上でそんなふうに感情を揺さぶられて涙をこぼしたのは初めてでしたが,今回RGRで
小国の山道を走っているときにも同じように思いがこみ上げたことがあります。

年とって涙もろくなったなあと苦笑いしましたが,そのときの感情は自分のサイクリストとしての,
いやひとりの人間としての人生に大きな意味があると思いました。

「大人になってから思いがけなく経験する恋」というのはその「意味」のメタファーです,あくまで(笑)

けれど,肉体は衰えていっても心は決して枯れてしまうことはなく,むしろさまざなな苦労を経てきて
若いとき以上に無垢で繊細になることがある,というのはサイクリングでも恋でも同じだろうと思います。


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       *       *       *


RaphaのGetlemen's Raceがこれほどボクらの心を揺さぶる理由は,サイクリストのピュアな眼と心と脚を
持った仲間たちがたんなるコマーシャルイベントの枠を大きく越えた努力でルートを探し
(今回は九州の皆さんが1年がかりで下見されました),多くのボランティアが労を惜しまず,スタッフが
長い時間をかけて準備をされたからであることは言うまでもありません。

心から感謝します。

そして,Raphaというブランドがいつまでも,ファッションだけでなく「道に恋する」サイクリストのそばで
伴走してくれる存在であり続けることを望んでやみません。

小国のあの道を思い出すと胸が苦しくてドキドキして,いますぐにでも会いに行きたくなります。
ほんとうに素晴らしい経験でした。


*もう一度写真のありかを。いつものようにこちらに→flickr
Commented by nob at 2014-04-26 08:09 x
仕事前にさっと流して見ましたが、なんと失礼な読み方だったことか。
思わず目頭が熱くなりました。
今日は(も?)もう、心ここに在らず、小国を想い、仲間を想い、携わった全ての方々を想い一日フヌケ決定です…
仕事から帰ってもう一度、いや、何度も拝見、読み返します。
今回も旅の仲間の末端に加えて戴き本当にありがとうございます。
そしてお疲れ様でした。
Commented by KEN at 2014-04-26 13:03 x
こんにちは。
チーム無事完走。お疲れ様でした!素晴らしい詩と写真に感動しました。
うちは熊本空港の北側なのですぐ近くまでいらしてたんですね!
当日は前日の雨が嘘のような気持ちのいい朝だったので仕事前にドライブしたくなり、ここに出てるラピュタと天国への道 周辺を車で流しました。
今回のルートは見慣れた景色と走った事のある道ばかりでしたが、ペダルさんの写真では県外の素晴らしい風景の中を走り抜けているように感じました。
今シーズンはGentlemen's Raceの足跡をゆっくりたどってみます。
Commented by ペダル at 2014-04-27 00:20 x
nobさん,泣かせてしまいましたか,オッサンを(笑)

こちらこそいつもながら心細やかな気づかいを道中していただいて
ありがとうございました。また行きましょうね!
Commented by ペダル at 2014-04-27 00:23 x
KENさん,そうなんです。KENさんのホームコースにお邪魔しておりました。
開催後まで行き先はオフレコという約束事でお伝えしておりませんでしたが,
存分に肥後の魅力を堪能しました。素晴らしいところですね!
次にお邪魔するときはぜひおつきあいいただければと思います。
とても思い出深いライドになりました。
Commented by リキ at 2014-04-27 22:47 x
初めてコメントさせていただきます。
メソさんのブログつながりで,時々拝見していました。
今回の記事に感動しました。
なんと美しい言葉で語られているのかと,何度も読み返しました。
「道に恋する」という言葉に恋しました。
まさに,ぼくはこういう気持ちで走っています。
使わせてもらっていいですか(笑)
Commented by ペダル at 2014-04-27 23:54 x
リキさん,ありがとうございます。
ご自由にお使いください。自転車乗り誰でもが持つ気持ちですから (^^)
Commented by くるくる at 2014-04-28 15:53 x
Pedalさん、今回も色々お世話いただきありがとうございました。
素敵な文章、感動しました。 自転車もブログも師匠を目標に
コツコツと努力しなければ! 酒量を減らして。。(笑
Commented by ペダル at 2014-04-28 16:54 x
くるくるさん,こちらこそ!
今回はおんぶにだっこでボクは何もしなかったような(汗)

でも,2度目のRGRでチームとしてのカラーやきずなが見えてきて
面白かったですね!また行きましょう。
Commented by メソ at 2014-05-01 12:41 x
マエストロ!参りました。
時に愚かで、過剰で
誤謬を孕みながらも止み難く…
うーん確かにロードレースは恋なのかも知れません(。-_-。)
Commented by ペダル at 2014-05-01 17:07 x
メソさん,上のビデオ見ていただくとおわかりいただけると思いますが,
RGRは「レース」というより「オリエンテーション」に近い雰囲気のライドです。
だからよけいにチームで走っているその土地のたたずまいや
道の風景をじっくり味わえます。
小国の「次」が楽しみです。
Commented by タキ at 2014-05-09 00:17 x
いつも楽しみに拝見しておりますが、今回初めてコメントいたします。タイムリーなことに、最近招かれざる客人を迎えてしまい、それでココロにグッときた次第です。美しい文章であらわされると、この説明がつかなかった気持ちが、なんとしっくりと穏やかに飲み込めるのかと驚いています。なんとも要領を得ず申し訳ありません。しかし読んでいるうちにどうしてもこの気持ちをお伝えしたくなってしまいました。
Commented by ペダル at 2014-05-10 00:45 x
タキさん,お気持ち察します。
恋する気持ちに年齢も状況もありませんものね。
若いときとちがって気持ちのままに突き進むこともままならず
よけいに切ないこともおありかと。
でも,その純粋な心をぜひ大事になさってください。
ボクもまだまだ恋する気持ちをうしなわずにいたいと思います。
by pedalweb | 2014-04-26 01:57 | 自転車系イベント | Comments(12)