Rapha Prestige Kuju 〜レポートpart3 ダンス・ウィズ・ミスタータンノ(3)

それは思いがけないけれど,あの土地の歴史を考えれば必然ともいえる出会いでした。

全行程136km中の112.5km地点となるCP2を制限時間にいくらかマージンを残して出発したボクらは,
猟師山のなだらかな南斜面の道を北にむかって登りはじめた。

すぐにやまなみハイウェイと別れ,星野リゾートのホテルの前をとおり県道40号に入る(ここまでそういう
「世俗」の匂いがほとんどしない道を走ってきたので,なんだか奇妙な感じがした)。

しばらく雑木林の間を登ってゆくと道路の右にその白い姿はあったのでした。



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一瞬いなかの道によくある道祖神かと思ったけれど,よく見るとマリア像だった。

なんの標識もなく,道祖神の役目をするにはたよりないほど小さい。昔からあるものか最近になって
置かれたものかもわからない。

けれど,ボクはとっさに感謝の言葉をつぶやいていた。

 ここまでボクらをお守りくださり,ありがとうございます。

 どうぞ世界中のサイクリストをお守りください。
 
 世界中の争いごとがなくなりますように。

ボクはクリスチャンでもないし,信心深い人間でもない。

ただここまで声には出さなかったけれど,チームの安全と完走を祈りながら走ってきていたから,
思わず心の中にためていた気持ちを言葉に出したのだろう。

おりしもこの日,イタリアのベテランクライマー,ミケーレ・スカルポーニが練習中の交通事故で
亡くなった。ボクは自分たちのゴール後にその死を知った。

彼が亡くなったのはこの日の(現地時間の)早朝らしい。時差を考えると,まさにボクがマリア像を
見たくらいの時間だ。何という悲しい偶然だろう。

ボクは祈る。

 どうぞ世界中のサイクリストをお守りください。
 
 ミケーレの魂よ,やすらかに。



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あのマリア像がまぼろしではなかったことを確かめるように,あとになって,ストリートビューで
像が立つ場所をたしかめる。

花が飾られていて,たぶん地元の方が掃除をされているのだろう。もっと汚れていてもおかしくない像が
清らかに白い姿のままでいるのはそのせいだろう。

ボクはかつて写真で見た長崎の隠れキシリタンのお墓のことを思い出す。

そのお墓は苔むして表面が緑色になった少し厚みのある長方形の石が地面に寝かされて置かれている。

石の上にはいくつか白い小石がのっていて,信者はお墓にむかってお祈りを捧げるときに,小石を
十字の形にならべ,祈りが終わると石をもとの雑然とした形にもどしておく。もちろん,自分たちの
信仰を迫害者から隠すためだ。

こちらのブログでその所作がよくわかります。

「隠れキリシタン」というのは,戦国大名の熱心な布教のもとでキリスト教に改宗した庶民たちが,
江戸時代以降の(なんと明治時代の初期にもつづいた!)弾圧のもとで,自分たちの信仰を偽装し,
弾圧から逃れた姿のことだという。

けっして落ち武者のように山奥に逃げこんだ人々ではなく,世俗の姿の下に信仰を隠し,ごく小さな
集団の中で先祖からの信仰の伝統を守り続けた人たちだ。

ボクらが『プレスティージ』の日に走ったのは,まさに豊後街道周辺でキリシタンが多かったエリアで,
あのマリア像にもきっと何かいわれがあるのかもしれない。

再訪する機会があればたしかめたい...

そんなことを考えながら,九重森林公園スキー場の手前で県道をはなれて一目山(ひとめやま)への
ハイキング道に入る。



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ゲートには太いチェーンがかけてある。ふだんは車両進入禁止の道で,『プレスティージ』の前後の
3日間だけ管理する電力会社から許可をとっているとのこと。

しばらく灌木の間の粗いアスファルトの道を登ってゆく。

突然誰かが小さくアッと叫ぶ。

ゆく手の右の方に巨大な風車が見える。

何機あるのだろう?山のむこうから攻めてくる敵をむかえ撃つ巨人のように立っている。



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風車そのものはもちろんかなり巨大だ。

けれどそれ以上に,狭い山道をひたすら登ってきて自分たちの非力さや小ささを感じているボクらの目には
ブンブンと音をたててまわる風車がよけいに大きく見える。

そうか,こういうことか。こういうエンディングなのか。

また丹野さんの笑顔を思いうかべる。

と,そのとき,前方の道のまん中にカメラをかまえた人物が見えてくる。

あっ!



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逆光で顔もよく見えないのに,みんなその人物が誰なのか確信して,笑顔をおさえられなくなる。

カメラをかまえる彼の前を通りすぎるとき,みんなが歓声をあげ,シュンくんが手をふる。

でも,それだけでは終わらなかったのだ。

ボクらが不意をうたれて驚くのを楽しみに丹野さんは立っていたのだ。



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もしあの日,ボクらが一目山の稜線の道から阿蘇まで見わたせる大パノラマを前にして「完走」の目標を
ほんのつかの間でも忘れていたら。

まるで地の果ての聖地をめざす巡礼のようでなかったら。

きっとボクらは時を忘れてあの景色を前に立ちつくしていただろう。それまでの苦労の全部に報いて
くれるほどの景色だったのだ。

けれどボクらは先を急いだのだった。




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誰が言い出すともなく,ボクらはまっしぐらにゴールへと走り出した。

自分が非力なひとりであっても,こうしてチームになって走るとき,白い石が十字架をかたちづくるように,
小さな力をよせあって,思いがけない強さを発揮できると知っていたから。



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ボクは祈りながら下る。

 ここまでボクらをお守りくださり,ありがとうございます。

 このまま時間をとめてください。

 ずっとこのまま走らせてください...




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2014年の『ジェントルメンズレース小国』を走ったあとで,ボクはこう書きました。

 RaphaのGentlemen's Raceがこれほどボクらの心を揺さぶる理由は,サイクリストのピュアな眼と心と
 脚を持った仲間たちが単なるコマーシャルイベントの枠を大きく越えた努力でルートを探し,多くの
 ボランティアが労を惜しまず,スタッフが長い時間をかけて準備されたからであることは言うまでもありません。

 心から感謝します。

 そして,Raphaというブランドがいつまでも,ファッションだけでなく「道に恋する」サイクリストのそばで
 伴走してくれる存在であり続けることを望んでやみません。

今回また感謝するとともに,さらに学んだのでした。

「道」はただそこにあるのではなく,労を惜しまずたんねんに心をこめて自分たちがつくり出すものだと。

丹野さんがつくり出した見事な曲を,いろんなライダーが思い思いに奏で合った。

ボクらも丹野さんと一緒にダンスを踊りながら,「道」をつくり出したのだと思うのです。


       *       *       *



ともに苦労し,練習で笑い,この幸せな旅をすごしたチームメートに感謝します。



*4月28日から7月2日まで,青森県立美術館で丹野さんの写真作品が展示されています。ぜひ!

(完)

       *       *       *


書き終えて,先日紹介した,キャプテンの手による素晴らしいビデオをまた見たくなりました。

すごくEase Cafeらしい。







by pedalweb | 2017-05-03 23:22 | 自転車系イベント | Comments(0)