ECCCクラブツーリング〜現代美術と酵母菌

先日の3連休の月曜日,クラブ仲間と輪行で兵庫・岡山・鳥取の3県にまたがるツーリングに出かけました。

はじめてのエリア,はじめての試みもとりいれて,とっても『イーズカフェ・サイクリングクラブ』らしい
味わいの,素敵なサイクリングとなりました。

これまで輪行も美術館を訪ねるサイクリングも,もちろんグルメライドも,ボク自身はそれぞれ経験ずみだった
のですが,今回はすべての要素がミックスされていて,しかもそこに「楽しく知的な冒険」がふくまれていた点が
ボクにはとても新鮮で印象深く思えました。

ちょうど,キャプテンに『イーズカフェ』で煎れてもらうドリップコーヒーのように深いコクのある
サイクリングになったのですね。



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*帰路の電車を待つ時間。因美線(鳥取〜東津山)の那岐駅で。ここから智頭に出て,智頭急行に乗り換え。



同じように出かけても,参加メンバーに現代美術にくわしい人がいたり,美術館の建築の解説を聞けたり,
訪れるパンとビールの工房のバックグラウンドに強い関心を持つ人がいたりすると,そのメンバーの
「教養」のおかげで行き先ごとの「意義」をより鮮やかに感じることができます。

サイクリングがアウトドアの遊びであると同時に「楽しく知的な冒険」になるのはこんなときなんだ!と
あらためて実感したのでした。

で,ボク自身はというと...

往復に使った第3セクターの特急の来歴も,訪れた美術館の成り立ちも,工房のバックグラウンドも,どれにも
うとかったのですが,走ったエリアがほぼ「子ども時代に(療養のため)長い時間をすごした第2の故郷」近く
だったので,たぶん他の誰よりも集落のたたずまいや田畑の景色や地名の響きに興奮していたはずです(笑)

こげに懐かしい土地ばぁ走りよったら,子どもの頃にもどったような気がしよるんじゃぁ。
皆さんも,ええなぁ面白そうなところじゃなぁと思いんさったら,来てみんちぇよぉ。



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月曜の朝9時に輪行で山陽本線の上郡駅に到着。寝不足で朝早いのでほぁあ〜と思わず大あくび。

ひさしぶりの輪行で,しかもローカルな各駅停車で(姫路までは快速),降りる駅が懐かしい「かみごおり」
となると,知らないうちに興奮していたのでしょう。2時間あまりの車中でまったくうたた寝できず。

子どもの頃,ボクは喘息持ちで療養のため休みごとに岡山北部の津山に近い母方の里にあずけられて
すごしました。

休みになると弟とふたりで大阪から国鉄と片上鉄道,そのあと宇野バスを乗り継いで出かけてゆく
美作(みまさか)地方の農村が,いつしかボクにとっては「第2の故郷」となっていました。

当時の国鉄の準急や急行(「鷲羽」や「備後」)が姫路を出て,上郡をすぎ三石を出発すると,ボクと弟は
荷物を持ってドア近くに行って待機。降りる和気(わけ)の駅のふたつ前の駅なのですが,子どもだけの道中で
緊張しているので,少し早めに降りる態勢をとるわけです。

あ〜,田舎に近づくときのわくわくした気持ちはあの頃とちっとも変わらないや(笑)



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参加メンバーは6人。クラブメンバーの他にゲストで建築家のユズルさんと滋賀からのリーコさん。

ユズルさんたち姫路組は早朝からの自走で上郡まで。リーコさんはボクと同じく輪行で到着。

今回の企画,もともとはグラフィックのデザイナーでもあるキャプテンがNagi MOCA(Nagi Museum
Of Contemporary Art)『奈義町現代美術館』に自転車で行ってみよう!と呼びかけたのがきっかけ。

そこに,クラブメンバーのシュンくんとリーコさんによる「聖地タルマーリーへの巡礼」提案。

この2つの地点をつないで,さらに那岐山のふもとの気持ち良い道を走ろう!というが今回のサイクリング。

距離は60km弱,獲得標高も900mあまりと短めのプランなのは,美術館と工房をゆっくり楽しもうと
いう趣旨のためです。



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上郡駅を出たあとは千種川に沿ってR373を北上し,途中早くもお腹がすいたという声をうけて,
姫新線の上月(こうづき)駅構内の売店にピットイン。

いろいろ地産地消なおやつもあって,おしゃべりしながら休憩。テラスにはちょうど小休止にうってつけの
椅子やテーブルがあって,サイクリスト向きの駅です。

まるで止めた自転車にあつらえたように立ったノボリがおかしいなあ(笑)

ここはもう兵庫県の西の端で,川の名前も「千種川」から「佐用川」に変わるエリア。

姫新線沿いのR179(出雲街道)をしばらく行くと岡山との県境の峠。

今回のルートは中国山地の南斜面をゆっくりと登って,鳥取県側に入って下ってゆく縦断ルートなのですが,
津山盆地の東の端から那岐山の南斜面にかけてのゆったりした高原がボクにとってはサイクリング・ハイライト。

どんな景色がひろがるのかなぁ...



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出雲街道の北を通る中国道の作東ICをこえると,いよいよ那岐山の南にひろがる日本原の高原地帯に
入ります。

以前,『奈義現代美術館』のことをはじめて知ったときに,子ども時代のおぼろげな記憶では
モダンアートとは大よそ縁のない土地になぜ?と不思議に思い,いまの奈義町の様子をネットで
調べたことがありました。

すると,自治体総出で若い人の移住を推進していたり,なにかと地域の活性化に熱心な様子。

たとえば,奈義町観光サイトの移住・定住のHPはけっこう充実していますね。

何よりびっくりしたのは出生率が全国トップレベルだというこの記事

ホントに何もないといえば何もない田舎でこれは驚異的です。たんに自治体がハードウェアの面で
若い家族の受け入れに熱心だという以上に地域全体の熱意やソフトウェアの面でのインフラが
整っているということなのでしょうね。

今回ボクが楽しみにしていたことのひとつは,美術館をとりまくそういうオープンで先進的な雰囲気を
奈義町の土地に実際に行って感じてみるということでした。

これってこれからの日本社会にとって希望の芽となる事象ですから。



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たんに自治体がハコ物に税金を投入して地域の目玉にと試みるという例は全国にいくらでもあると
思いますが,『奈義町現代美術館』のユニークな点は,地域にゆかりのある有名画家や地産の素材を
アピールするコンセプトではなくて,「町として将来(50年後くらい?)こうなっていたい」という
ヴィジョンをまず考えて,それを具現化する構想に沿って運営されていることなのでしょう。

こういう「温故知新」ならぬ「知新革温」とでもいうアイデアによる美術館は世界的にもあちこちに
先例があります。



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たとえば,パリのポンピドゥーセンターは,もう半世紀も前に,かつては市場や風俗店がならんだ市内でも
一番古い中心部にまるで宇宙船が飛来したようなインパクトを与えて,地区の様相を大きく変えてきました。

他にも12世紀以来の宮殿を利用したルーブル美術館の中庭に1988年に突如ガラスでできたピラミッドが
建設され(設計は中国系アメリカ人建築家で,館内の地下も大きく改築),新旧(東西)の文化のぶつかり
合いから新しい美術館像をつくり出したのは記憶に新しいところです。

『奈義町現代美術館』は磯崎新の設計監修による建築と作品が一体化した斬新でユニークな美術館ですが,
それをこの土地につくりだしたプロセスそのものもボクにはすごく興味深く思えるのです。



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あいにく館内の写真は撮影はオーケーですがSNSなどへのハッシュタグ付きでのアップロードは
禁止となっています(建物の内部そのものが「作品」でもあるというコンセプトだからでしょうか)。

実際の「体験」がとても楽しい美術館ですので,ぜひ足を運んで「建物」の面白さも感じてみて
ください。



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サイクリングに話をもどすと,ひとつ残念だったのは,同じ敷地内にあるピッツェリア『ラ・ジータ』
お休みだったこと。

以前は姫新線の勝間田駅近くにあったのが,今年になって美術館のところへ移転されたそうです。
写真を見るとかなり本格的なピッツァで,ランチはいつも予約がいっぱいだとか。

今回は臨時休業で残念!また来なければ。



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ということで,少し北の『那岐山麓山の家』に移動してバイキングランチ。

味もボリュームもばっちりで,とてもサイクリスト向きでした。

次は併設のコテージを借りてサカグライド&サイクリング&ハイキングもありだなあ(笑)



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昼食後は山麓の菩提寺に立ち寄り樹齢900年をこえる大イチョウ見学。

予想以上に大きくて神秘的。その命の長さに思わず敬けんな気持ちになって手をあわせました。

広角レンズのコンデジでは,全体像がまったく伝わりませんが,きっと黄色く色づいた晩秋の早朝など
素晴らしい絵になることでしょう。



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菩提寺をあとにして,いよいよ那岐山の東をこえて鳥取へと下る因幡街道(R53)に入ります。

めざす工房&カフェの『タルマーリー』は,ちょうど街道が北へと分水嶺をこえて下り,西の津山からやってきた
因美線が智頭の町に入る玄関となる谷あいにあります。


*岡山県内にあるのが「奈義町」で,鳥取県内の集落と山の名前が「那岐(山)」なのですね。この表記の
 ちがい気になります(笑)


JR因美線の那岐駅から徒歩5分ほどのところではあるのですが,ここも奈義町の美術館がよもやここに?という
場所にあるのと同じく,かなり意表をつくロケーションです(お店の来歴を知ると,水と酵母の必然性に
もとづいた立地だとなっとくはするのですが)。



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建物もとても自然で周囲にとけ込んでいるのに,どこか洒脱で都会的なニュアンスさえ醸し出しています。
もとは幼稚園だったそうです。

それをいまも少しずつ手を入れて増改築されている様子。

今回のツーリング企画の話が出るまで,ボクは寡聞にも『タルマーリー』のことを知りませんでした。



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お店のご夫婦がもとは千葉で開店されたこと,やがて天然酵母の可能性を求めて,岡山県内に移住され,
2015年に現在の地に移られたことなどはお店のHPに詳しく書かれています。

一見無軌道な冒険家のご夫婦のように見えますが,学歴や職歴を拝見すると,とても理にかなった
選択を積み重ねての「いま」なのだと腑に落ちます。

同時に,そうした情報なしに,実際にお店をたずねても,出していただくパンや(今回は品切れで
野菜をメインにしたハンバーガー)那岐に移られてから始められた地ビール,さらにはお店の中の
しつらえや調度,カトラリー,食器など,いたるところに「誠実な探究心」と「ほどよくゆるやかな美意識」の
見事な調和が感じられて,いまや海外にも熱心なファンを生んでいる理由がよく理解できます。

訪れた誰もが口をそろえてホメるここのパンをいただけなかったことは残念なのですが,それと同じくらいに
ボクにとっては,ご主人の渡邉格(わたなべいたる)さんの著書『田舎のパン屋が見つけた「腐る経済」』
読まずに訪問したことが心のこりとなったのでした。

次に訪れるときは,ご主人が若い頃ににハンガリーで見聞きされ影響されたことなんかも聞いてみたいなあ。



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ボクはお店のたたずまいや,ビールやパンの様子から,どこか東ヨーロッパ(とくにハンガリーやチェコの
ボヘミア)の気配を感じるのですね。

ご主人が若い頃に研究されたマルクスも含めて,ボクにとって『タルマーリー』は,まだテクノロジーが
等身大なツールでもあった,20世紀初頭までの(当時は先進地域でもあった)東ヨーロッパのライフ
スタイルを現代に翻訳する試みにも思えます。

いやあ,シュンくんとリーコさんには,こんなに面白いお店を教えてもらって感謝しなければ。



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ゆったりとお店でくつろいだ後は,智頭まで出て,智頭急行線の「スーパーはくと」で帰ったのでした。

盛りだくさんでアッという間にすぎた一日でしたが,ボクにとっては,自分がサイクリングやクラブでの
活動に求めているものをあらためて再確認できた時間でもありました。

自転車そのものはテクノロジーと人力の愛すべき融合なわけですが,ボクは自転車での「旅」に,
「人知」と「自然」の巧みな調和が感じられるとうれしくなるのですね。

そしてそういう調和は独力で感じられるものではなくて,さまざまな「教養」をそなえた仲間との
つながりがあって初めて感得できるもの。

ああ,もっとみんなの話を聞きたいなあ。

帰りの車中,ビールで気持ちよくなったアタマでますますそう思ったのでした。





Commented by かっつん at 2017-10-15 20:44 x
その場の空気が伝わってくるお写真と丁寧な文章で綴られる素晴らしいライドの様子を、毎回追体験するような感覚で楽しみに読ませてもらっております( *´艸`)渡邉さんの著書も興味深く、早速注文してしまいました。。
Commented by ペダル at 2017-10-15 21:36 x
かっつんさん,いつもありがとうございます!タルマーリーほんとに興味深いです。かっつんさんは料理もお上手だからよけいに楽しめるでしょうね。ご都合あえばクラブライドにもお越しくださいネ(^^)
by pedalweb | 2017-10-13 23:29 | ツーリング/ポタリング | Comments(2)