2016年『鶴六』レポートpart3

前にもブログに書いたかもしれないけど,たいていは酔っぱらって書いているから覚えていないんだなあ(笑)

「自転車は他のどの乗り物よりも楽器に近い道具だ」という視点のこと。

いくら高価なハイエンドバイクも乗り手の脚力が相応でなければ,たぶん性能の10%も発揮しはしない。

それは億の値段のストラディバリウスや一千万円をこえるスタンウェイが演奏者の力量次第でまったく
別の音楽を奏でるのを考えればよくわかる話。

だから,一番「美しい」のは,乗り手と自転車のバランスがとれたペア。

もちろん,ホビーのサイクリストが大枚はたいて高価な自転車を買うのは輪界の景気にもつながるので
大いに歓迎すべき消費のあり方だけれど,それは「美」とは別の話。


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「川西の壁」という,すごいんだか可笑しいんだかわからない異名をボクらのコミセールにつけられた,
住宅地の中の亀の甲印の激坂をゴリゴリ登りながらボクが考えていたのは,この「美」の話。

そう,『鶴六』のメンバーの何が気持ちが良いって,誰も自分が遅い原因を愛車のせいにはしないという点。

もっと言うと「愛車の値段」のせいにはしない点。いまボクらが買えるロードバイクはほとんどどれも
ホビーの乗り手の力量のはるか上の性能を持っている。それをここにいるみんなはよく知っている。

ボクの経験上,自転車趣味が人生を明るくするとしたら,その一番の理由は「乗り手が腕(足?)を磨く
ことがハッピーにつながる」という,単純明快なシンプリシティーが断固としてあるからこそ。

『鶴六』ってしょせんホビーでちょっと登れるレベルのメンバーの集まりだけど,そのシンプルな原理を
誰もが謙虚によくわきまえている。

実際,『鶴六』にかぎらず,獲得標高が3000mをこえ,4000mにも5000mにもなるにつれ,見えてくるのは
機材の技術的優位よりも「ペダリングの技術」を主とした「乗り手の足の差」が生み出す「幸福な世界」。

これはボクが『ツール・ド・フランス』の前座の『エタップ・デュ・ツール』でピレネーの峠をヘロヘロになって
越えたときにも見聞きしたことで,販売価格やレストア費用の多寡がそのまま車体の速さやエレガンスに
つながる四輪の冷徹なヒエラルキーの世界とはちがった,自転車ならではのヒューマンな面白さ。

まあ,こんなふうに,いらんこと考えながら激坂登るからよけいにしんどいのですが(笑)

ちなみに,「川西の壁」は能勢電鉄の鼓滝駅のすぐそばから登る坂。距離は460m,獲得標高46m,
平均斜度12%,最大勾配(たぶん)20%。

坂の途中にはコミセールのお兄さんのパスタ製麺所があり,丘の上には実家があるらしい。
な〜んだ,彼の少年時代の通学路か(笑)






みんなが仲のいい『鶴六』の仲間も一同に会しては走るのはひさしぶりで,前半はどことなく互いの間に
わずかな距離がある。

けれど,ひとつ峠をこえ同じ釜の飯を...もとい,同じ『王将』のギョーザを食べるにつれ,あの懐かしい
親密さがもどってくる。


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それはちょうど,苦労して大きな楽曲を演奏した経験がある仲間たちが,世界のあちこちからもどってきて,
ある夜,それぞれの楽器をたずさえて集まり,おしゃべりしつつ音を合わせてゆくのに似ているかもしれない。

それぞれの個性なりに,それぞれの脚力なりに,同じ道を同じ時間に走ってゆくのだけれど,いつしかそれが
大きなひとつの「メロディー」を奏で,心地よいリズムをきざみ始める。

ああ,これこれ!これなんだよ!って思う。

つかの間の戯れに過ぎないのだけれど,「つかの間」の中に「永遠」が垣間見える。そんな感じ。

それは,十万辻にまたもどってきて,お日様の高さとともにみんなの顔に疲労がにじみ始める頃
いっそうはっきりする。

ほら,みんなてんでバラバラな動きなのに,まるで楽譜のように並んでません?(笑)


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最後のセクション,有馬街道で船坂に登り,ハニーの峠をこえ(ハチミツ農場が路傍にあるので,
こう呼ばれる激坂です),最後の東六甲ドライブウェイにとりつく前に,ボクはわざとみんなから離れる。

そして,お祈りをする。

どうか,ここでいま走っている幸せでボクを満たしてください。失敗ばかりしていて,情けないボクの人生で
こんな楽しい時間があることを祝ってください,と。


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そんなふうにセンチメンタルになっていると,いつも必ず置き去りにされるので,少し足に力をこめる(笑)

一瞬だけプロトンの前に出て,九十九折れの端でカメラをかまえる。

アレ!アレ!!風を立てて通りすぎる仲間たちの姿をレンズにとらえる。


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有馬街道の船坂から東六甲の登りにとりつくルートはボクのホームコース。

いまボクは新しい環境の中で異邦人のように暮らしているので,ここに「ホーム」があるのはありがたい。

斜度18パーセントの登りを慈しむように登る。

どのカーブも懐かしい,愛おしい。


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また,ちょっとだけ前に出て,みんなが腰をあげて登ってゆく姿を撮る。

楽しい。

ひさしぶりに,生きている感覚をとりもどす。


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奇跡のようにポンプさんも六甲山上の一軒茶屋の前に無事ゴールして,ボクらの『2016年鶴六』が
終わる。

もちろん最後は一軒茶屋の前からガレたハイキング道を登って,六甲山の最高地点まで行く。

記念撮影をする。

仲間の婚約と転勤を祝う。

偶然に遭遇したヒルクライマーの憧れヤベッチにも輪に入ってもらって写真を撮る。


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少し陽が傾いている。

ボクはみんなが海を見下ろす坂を下ってゆくのを見ている。

たぶん,この場面はけっして忘れないと思う。


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また来年『鶴六』で会おう!

ボクはあと2回は走ろうと思う。「赤いジレ」着て祝ってもらう。まだ少しこの空気の中で走っていたいなあ。



*写真はいつものこちらに→flickr
by pedalweb | 2016-05-13 00:49 | ロードレース/ヒルクライム | Comments(0)