走る・書く・魅せる〜山本元喜選手の「書く力」
2016年 06月 06日
*ムダな戯れ言を削って,短く書き上げました。山本選手ご本人のようにタイムリーに書かないと(汗)
ボクら日本のロードレースファンにとって今年の『ジロ・デ・イタリア』の一番の見どころは例の彼ですよね!
そうNIPPO・ヴィーニファンティーニ・チームで走っている山本元喜(げんき)の走りっぷり!
正確にいうと,彼が自分のブログで毎日欠かさずアップする詳細なレースレポートを通して届けてくれる
この上なくライブ感にあふれた『ジロ・デ・イタリア』の姿。
ボクの狭い経験に照らしても,過去にグランツールに出場した日本人選手はもとより,海外の選手でも
ここまで全ステージを克明にレポートしてくれるプロ選手って記憶にありません。すごいなあ山本クン!
*Cyclowiredでも使われていた辻啓さんの写真をお借りしました。あのルポの名手の啓さんにして,
毎日記事の中で山本選手のブログからの引用が欠かせない素材となるほど,元喜ブログの筆力は
立派!
あいにくここ数年ボクは『ジロ』の時期に仕事が忙しく,ほとんどライブでのテレビ放送を見ることが
できません(見ると寝不足か練習不足になる)。『ツール』の時期はわりと時間に余裕があることが
多いのですが,『ジロ』のときは,せいぜい超級山岳などの勝負どころのステージを見るくらい。
それにくわえて,7月の『エタップ』には参加できても,3日以上仕事を休むことがほぼ不可能な5月に
『ジロ』の観戦のためにイタリアへ旅行することは不可能。
でも,イタリア大好きなんですよねえ。
だから,ますます『ジロ』の頃のイタリアの空気やレースの雰囲気には憧れる。
今年はまったくテレビ放送は見ていないけれど,元喜ブログに出会って(第10ステージの日にはじめて
その存在を知りました。もっと早く知りたかったなあ!)ますます5月のイタリアに行きたくなった(笑)
感謝の気持ちもこめて,彼のブログがなぜすごいのか少し掘り下げて考えてみました。
*山本元喜ブログはこちら→『Genki一杯』
*鹿屋体育大学の選手だった頃の彼についての記事はこちら→『パナレーサー ホイールトーク』
*彼が自分のブログについて語った記事→『Cyclist』
*NIPPO RACING PROJECTのページから→メンバー紹介
●彼のブログのここがすごい!(その1)
もちろんレース展開をプロトンの内側の視点で克明に記録されていることが素晴らしいのですが,
ひとりの選手としての皮膚感覚だけではなく,(たとえ先頭集団が見えていなくても)レース全体の
展開への推測もまじえつつ「俯瞰する視野」も織り込んでいることがすごい!
たとえば,『ジロ』第16ステージ序盤の展開の描写。
「先頭から5番目くらいの位置に入るが集団先頭付近は協調が上手く取れていない。
というよりあえて乱しているチームが居る。
LOTTO JUMBOだ。
逃げを追いたいのはNIPPO、バルディアーニ、モビスター辺り。
LOTTOが集団先頭付近に位置取ることで逃げを追いたいチームが前に出にくくなっている。
恐らく総合順位を脅かす選手が入っていない逃げなのだろう、LOTTOとしてはさっさと逃がして
ペースをコントロールしたいのだろう。
LOTTOに阻まれながらも協力して前を追うが30秒差から詰まらない。
前も全力で逃げようとしているので当然だろう」
これってテレビの解説で宮澤さんが言いそうな分析ですが,リアルタイムに走っている選手の言葉と
して聞くと,解説の厚みが増して,よくできた映画を観ているような気分になりますよね。
*今回はここから記事とは直接関係のない写真を使っています。
●彼のブログのここがすごい!(その2)
そしてもちろんひとりの選手としての皮膚感覚を通して描かれるグランツールのレベルの高さ,恐ろしさ。
表現が的確で,彼個人の「痛みや回復感」を通して,トップレベルの選手たち全体のすごさが伝わります。
言葉にムダな力みがなく,それでいて描写が鋭いので,ヒリヒリするような空気とともにロードレースの
醍醐味が味わえる。
たとえば第14ステージの登り。
「159kmから始まる山岳ポイントに向かう登りに入る。
この登りは9kmで平均勾配は確か10%近かったはず。
何故か登り出しの速度が速い。
かなりキツイ。
グルペットなのに意味が分からない。
自分の隣でグレガがブチ切れ「頭大丈夫か!(あまりに汚い言葉だったので意訳)」と叫ぶ。
他の選手も同意だったようで「ユックリ走れ!」と叫んでいる。
最終的にBMCの選手が前に上がって行きペースをコントロールし出した。
その時点で時速9km程。
この坂を1時間近く登るんですか……?と恐怖しながら登る」
彼の描写で,グルペットが決して「最後尾でのんびり完走だけをめざす集団」なんてものじゃないと
ボクははじめて知りました。プロすごい(汗)
●彼のブログのここがすごい!(その3)
最後にもう1点。
彼は文章を書くこと自体を「回復」の一環として活用していますね。
しかもこれだけの大舞台になって始めたことではなくて,学生時代からずっと続けて習慣化している
ことがすごい,強い!
良い状況も悪い状況もその日のうちに振り返って分析し,クヨクヨと感情を内面におしこめて落ち込む
だけの重荷にするのではなく,未来への展開の材料にかえてゆける能力をあの若さで身につけている。
ここは何より見習いたい点です。
ボクは文学部の学生だったこともあり,若い頃から文章を書くことは少しも苦痛には思わないのですが,
ただ思索を掘り下げるだけで,次の展開に結びつけられずに堂々めぐりのままマイナスの感情を増産する
ことも少なくありませんでした。
現実を打開する行動に結びつかない思索を「観念論」と呼ぶとするならば,山本くんにはいっさいそういう
観念論がなく,それがとても清々しいのですね。
『ジロ』からいくらも日が経たないうちに彼はすでに『ツール・ド・コリア』で走っています。
さすがに疲れが抜けきらないようで苦戦しているようですが,持ち前の若さと賢明さで次につながる
レースをするはず。
彼の今後が楽しみです!
ボクら日本のロードレースファンにとって今年の『ジロ・デ・イタリア』の一番の見どころは例の彼ですよね!
そうNIPPO・ヴィーニファンティーニ・チームで走っている山本元喜(げんき)の走りっぷり!
正確にいうと,彼が自分のブログで毎日欠かさずアップする詳細なレースレポートを通して届けてくれる
この上なくライブ感にあふれた『ジロ・デ・イタリア』の姿。
ボクの狭い経験に照らしても,過去にグランツールに出場した日本人選手はもとより,海外の選手でも
ここまで全ステージを克明にレポートしてくれるプロ選手って記憶にありません。すごいなあ山本クン!
*Cyclowiredでも使われていた辻啓さんの写真をお借りしました。あのルポの名手の啓さんにして,
毎日記事の中で山本選手のブログからの引用が欠かせない素材となるほど,元喜ブログの筆力は
立派!
あいにくここ数年ボクは『ジロ』の時期に仕事が忙しく,ほとんどライブでのテレビ放送を見ることが
できません(見ると寝不足か練習不足になる)。『ツール』の時期はわりと時間に余裕があることが
多いのですが,『ジロ』のときは,せいぜい超級山岳などの勝負どころのステージを見るくらい。
それにくわえて,7月の『エタップ』には参加できても,3日以上仕事を休むことがほぼ不可能な5月に
『ジロ』の観戦のためにイタリアへ旅行することは不可能。
でも,イタリア大好きなんですよねえ。
だから,ますます『ジロ』の頃のイタリアの空気やレースの雰囲気には憧れる。
今年はまったくテレビ放送は見ていないけれど,元喜ブログに出会って(第10ステージの日にはじめて
その存在を知りました。もっと早く知りたかったなあ!)ますます5月のイタリアに行きたくなった(笑)
感謝の気持ちもこめて,彼のブログがなぜすごいのか少し掘り下げて考えてみました。
*山本元喜ブログはこちら→『Genki一杯』
*鹿屋体育大学の選手だった頃の彼についての記事はこちら→『パナレーサー ホイールトーク』
*彼が自分のブログについて語った記事→『Cyclist』
*NIPPO RACING PROJECTのページから→メンバー紹介
●彼のブログのここがすごい!(その1)
もちろんレース展開をプロトンの内側の視点で克明に記録されていることが素晴らしいのですが,
ひとりの選手としての皮膚感覚だけではなく,(たとえ先頭集団が見えていなくても)レース全体の
展開への推測もまじえつつ「俯瞰する視野」も織り込んでいることがすごい!
たとえば,『ジロ』第16ステージ序盤の展開の描写。
「先頭から5番目くらいの位置に入るが集団先頭付近は協調が上手く取れていない。
というよりあえて乱しているチームが居る。
LOTTO JUMBOだ。
逃げを追いたいのはNIPPO、バルディアーニ、モビスター辺り。
LOTTOが集団先頭付近に位置取ることで逃げを追いたいチームが前に出にくくなっている。
恐らく総合順位を脅かす選手が入っていない逃げなのだろう、LOTTOとしてはさっさと逃がして
ペースをコントロールしたいのだろう。
LOTTOに阻まれながらも協力して前を追うが30秒差から詰まらない。
前も全力で逃げようとしているので当然だろう」
これってテレビの解説で宮澤さんが言いそうな分析ですが,リアルタイムに走っている選手の言葉と
して聞くと,解説の厚みが増して,よくできた映画を観ているような気分になりますよね。
*今回はここから記事とは直接関係のない写真を使っています。
●彼のブログのここがすごい!(その2)
そしてもちろんひとりの選手としての皮膚感覚を通して描かれるグランツールのレベルの高さ,恐ろしさ。
表現が的確で,彼個人の「痛みや回復感」を通して,トップレベルの選手たち全体のすごさが伝わります。
言葉にムダな力みがなく,それでいて描写が鋭いので,ヒリヒリするような空気とともにロードレースの
醍醐味が味わえる。
たとえば第14ステージの登り。
「159kmから始まる山岳ポイントに向かう登りに入る。
この登りは9kmで平均勾配は確か10%近かったはず。
何故か登り出しの速度が速い。
かなりキツイ。
グルペットなのに意味が分からない。
自分の隣でグレガがブチ切れ「頭大丈夫か!(あまりに汚い言葉だったので意訳)」と叫ぶ。
他の選手も同意だったようで「ユックリ走れ!」と叫んでいる。
最終的にBMCの選手が前に上がって行きペースをコントロールし出した。
その時点で時速9km程。
この坂を1時間近く登るんですか……?と恐怖しながら登る」
彼の描写で,グルペットが決して「最後尾でのんびり完走だけをめざす集団」なんてものじゃないと
ボクははじめて知りました。プロすごい(汗)
●彼のブログのここがすごい!(その3)
最後にもう1点。
彼は文章を書くこと自体を「回復」の一環として活用していますね。
しかもこれだけの大舞台になって始めたことではなくて,学生時代からずっと続けて習慣化している
ことがすごい,強い!
良い状況も悪い状況もその日のうちに振り返って分析し,クヨクヨと感情を内面におしこめて落ち込む
だけの重荷にするのではなく,未来への展開の材料にかえてゆける能力をあの若さで身につけている。
ここは何より見習いたい点です。
ボクは文学部の学生だったこともあり,若い頃から文章を書くことは少しも苦痛には思わないのですが,
ただ思索を掘り下げるだけで,次の展開に結びつけられずに堂々めぐりのままマイナスの感情を増産する
ことも少なくありませんでした。
現実を打開する行動に結びつかない思索を「観念論」と呼ぶとするならば,山本くんにはいっさいそういう
観念論がなく,それがとても清々しいのですね。
『ジロ』からいくらも日が経たないうちに彼はすでに『ツール・ド・コリア』で走っています。
さすがに疲れが抜けきらないようで苦戦しているようですが,持ち前の若さと賢明さで次につながる
レースをするはず。
彼の今後が楽しみです!
by pedalweb
| 2016-06-06 09:20
| ロードレース/ヒルクライム
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