2018夏の旅日記 part1〜自由と自転車の街アムステルダム

けさ2週間ぶりに自転車に乗りました。坂を登るのにカラダが重いこと重いこと(笑)旅行で太りました。

若い頃ほど旅先で,あの店に行きたい,あのレストランでぜったい食べたい,あれをゼッタイ食べるぞ!という
執着心はなくなったのですが,それでも太って帰ってきます。

原因はもちろん加齢による基礎代謝量の低下で,今年で還暦を迎えるボクの場合,ざっくりいうと,代謝がピークの
10代後半にくらべて15パーセント,30代にくらべても10パーセントほどは落ちているそうな。

だからといって,太って丸っこい体型になるのをふせぐのに,食べる量をへらせば良いということではない
らしく,筋トレ・低カロリーでたんぱく質やミネラルが豊富な食事・十分な睡眠・水分補給などが大事。

けっきょく,いっぱい自転車に乗って,ちょっとハードなトレーニングもして,バランスよく食べてしっかり
寝よう!ということですね,カッコよく年をとるには(笑)

今年は旅行とかさなって出なかった『乗鞍』のレースを来年は目標にしてマジメに乗りこみましょうかね。
「めざせチャンピオンクラスタイム復帰!」なんちゃって(冷や汗)

   *   *   *

さて,今回おとずれた3都市の中で一番たのしみにしていたのはアムステルダム。

もちろん自転車が日常にとけこんだ魅力的な街というのも理由のひとつですが,オランダが政治や文化の面で
すごく先進的な国だというのが最大の理由です。



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*アムステルダムの朝の通勤風景。みんなけっこうなスピードです。



これまでボクがヨーロッパで好んで旅してきたのはフランス・イタリア・スペインといった
地中海圏のローマ帝国の末裔たちが築いた国々でした。

わかりやすくいえば,カトリックの文化でワインを飲み,比較的温暖な気候で食文化の豊かな国々です。

いっぽうで,寒冷地にあって,プロテスタントの国でビールを飲み,狭い国土で資源小国ながら,かつては
世界中に船で乗り出し交易で栄えた世界一の海運大国だったオランダ。

日本とは歴史のつながりが長く,ある意味まったく正反対ともいえる政治や文化の実際を知りたいと思って
でかけました。

で,たった3日だけの滞在ながら,その期待は十分に満たされました。オランダおもしろい!



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もちろん,はじめて観光客として訪ねただけの経験なので,あくまで表面的な事象の観察をしただけ
ですが,それでも直感的に感じられるこの国の「文化の芯」のようなものはとても興味深くて
好ましく思えました。

いくつか写真を並べて,その「好ましさ」の理由を書いてみますね。



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オランダといえば真っ先に「風車」と「チューリップ」を思いうかべる人もいるでしょうが,ボクの場合は
まず「運河」と「自転車」です。地理好きでサイクリストですから。

ご存知のように,オランダは狭い国土をフルに活用するために,巨大な堤防を築いて湾をふさぎ,干拓によって
国土を広げてきた国です。13世紀以降のことで,いまでも国土の30パーセントはマイナスの海抜だとか。

アムステルダムの内外を縦横に走る運河はその歴史が生み出した一種の「水上ハイウェイ」ですね。

いっぽうで,オランダは17世紀以降世界一の海運大国として栄え,最盛期にはヨーロッパの船舶の半分を
所有していたほどだとか。アムステルダムの美術館の作品の解説にもひんぱんに「東インド会社」の名前が
出てくるのですが,世界初の株式会社として発展し,イギリスが台頭するまで,ヨーロッパ圏外との貿易を
独占して得た富が文化や美術を下支えしてきたんだと実感できます。

こんなふうにボクが素人なりの浅い知識を書いているのはガイドブックでお勉強したことのおさらいをしたい
わけではなくて,実際にアムステルダムを自転車で走ると,ヨーロッパの田舎の小国の地位に安住せずに
大型の帆船を駆使して世界中にチャンスを求めてでかけた「先進性」と,そのプロセスで養われた硬派な
「自由の感覚」の片鱗が感じられたからです。



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*国立美術館の所蔵品。レンブラントなどの絵画に負けずおとらず,おびただしい数の大航海時代の船の
 模型や交易で行き交った品々が展示されています。



まず,実際にアムステルダムの街で見られる「先進性」の例から。

スキポール空港でおりて街中のホテルへ行くには,どこの国でもそうですが,タクシーのほかに列車やバスが
利用できます。

今回は同行者の体調がよくなかったので,タクシーを使ったのですが,列車もすごく便利そうでした。

バッゲージをピックアップして出るとすぐのところが駅になっていて,飛行機から列車へのアクセスが
驚くほどダイレクト。空港の設計が,利用者の「動線」をよく考えてなされていて(文字通り床に
「動線」が描かれています),各種のサインやピクトグラムも的確。

親切なようでいて,無駄な表示や後付けの説明書きが多く実は不親切な日本の空港とは大ちがいです。

タクシー乗り場に向かうとまた驚きが。

メルセデスやアウディにまじってテスラのタクシーがいっぱい待機しています。

当然「どうかテスラに当たりますように!」と祈って待ちます(笑)



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「やったテスラだ!」と,タクシーの車種でこんなによろこんだのは初めて(笑)

日本だと一千万円を軽くこえる価格のEV車がこれだけ普及しているのは国を挙げてのエコ志向の
運輸行政があってのことでしょう。

ヨーロッパではノルウェーがダントツでテスラの導入No.1だそうですが,国の玄関といっていい
空港で高価な電気自動車がこれだけタクシーとして利用されているとは,オランダもかなりの
エコ大国なのでしょう。

このほか,市内のトラム(路面電車)などで切符が廃止され全て磁気カード化され,各停留所では
こまかく車両の現在位置や待ち時間などの情報が出るなど,交通機関の「設計」思想がずいぶん
日本とちがうのがわかります。要するにずっと「合理的」なのですね。



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せっかくなのでレンタル自転車を借りて市内を走ってみます。

市内のいたるところにレンタルできるショップがあって,時間制でデポジットをいくらか払って
借り出すシステムです。

注意しないといけないのは,地元の人たちが使っている自転車のようにコースターブレーキ(日本だと
ピストバイクのように足で制御するタイプ)が主流で,「ハンドブレーキタイプをお願い!」と
伝える必要がある点です。

ボクらは中央駅構内にあるショップで「3時間」の枠で借りて,市内北端の大きな運河に浮かぶ島を
ぐるっとまわるルートに出ました。



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*車道とは別の自転車専用道。スクーターやこんなコンパクトEVも通行できます。



これまでパリでは何度もレンタル自転車「ヴェリブ」を借りて走っているのですが,アムステルダムで走ると
いくつも驚くことがあります。

まず,上の写真のように車道と明確に分けられた自転車専用道が市内全域に設けられています。これは本当に
「自転車専用」で(スクーターやコンパクトEVはのぞく),歩行者も通ってはいけません。うっかりすると,
街中で気づかないうちに自転車道を歩いてしまうことがあって,やってきた自転車の人に大きな声で叱られる
ことも,

信号も自転車専用になっているところがほとんど。



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要するに,自転車は「独立した車両」だという認識が確立しているのですね。

日本だと自転車の位置づけは,実際には車両と歩行者のどちらでもなくて「ぬえ」のように曖昧ですが,
オランダでは明確に人権ならぬ「輪権」が認められ,移動のための交通手段としては,ある意味ヒエラルキーの
最上位に置かれてように見えます。

正確には,「自転車で移動する人を何より優先する」のが交通システムのキモだという感覚ですね。



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あとで調べてみると,これはずっとそうだったわけではないようです。

ご多分にもれずオランダも戦後のモータリゼーションで慢性的な都市部の渋滞や空気の悪化,交通事故のよる
死者の激増というネガな現象を経験してきたようです。

その中で,自転車による移動の良さを見直して,それを交通の最上位に置いたシステムの再設計に取り組んだ
結果がいまの姿なのだとか。

日本やパリをはじめ他の先進国でもこういう発想はあるわけですが,それを国全体で実現してしまうのが
オランダの「先進性」ですね(国土全体が起伏の少ない平地だという背景は別にしても)。

もちろん,いたるところに駐輪した自転車があって,街の美観を損ねている部分もあるわけですが,上の写真の
ような巨大な駐輪場(これは中央駅前)が要所要所に設けられていて,トラムやバス地下鉄とあわせて,
まずは「ヒューマンスケールの移動」を優先しようという姿勢がはっきりとうかがえます。



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これは街の中心部にあるエコ志向の高級スーパーの前に止めてあった自転車ですが,(フレームのサイズから)
おそらく通勤からの帰宅途中に買い物のために立ち寄った女性のものです。

前の荷台にたくさん食料品を載せて家路をいそぐ人の姿はオランダの風物詩ともいえるものですが,同じような
高級スーパーに高級車で買い物にきて帰りの渋滞にはまるのとどっちが好ましいかという問題に国のレベルで
解答を出しているのですね。

買い物かごをつけた日本のママチャリと用途は同じでも,それを取りまく環境がちがいすぎませんか?



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街に(歩行の妨げになるという意味で)不法な駐輪があふれる,景観を損ねるという課題はこれから世界の
都市の共通の問題になるはずですが,これにもオランダがいち早く解答を出してゆくと思います。

というのも,オランダの「先進性」の背景には,マイナスの方向の「平等志向」(つまり同調圧力による抑圧)ではなく
プラスの方向の「平等志向」(リアリズムにもとづく利益分配)がはたらいているように思えるからです。

例はよくないかもしれませんが,それはアムステルダムの名物「飾り窓」のエリアを歩いていて感じたことです。



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*「飾り窓」地区に近いエリアの夜景。跳ね橋がライトアップされていて,ゴッホの絵が思い浮かびます。



「飾り窓」は港湾都市につきものの売春地帯を2000年以降政府が管理するようになった合法的売春地帯です。

と同時に,アムステルダム有数の観光地になっていて,正直なところ,子供づれの観光客までここで夜のそぞろ歩きを
している光景はとてもほめられたものではありません。

でも,です。売春を法の下に禁止するのではなく管理し,劣悪な境遇に落ちた女性たちの健康を保証し,
アンダーグラウンドに売り上げが吸い込まれてゆくのを阻止し,「そこにある現実からよりましな未来を」
実現してゆこうとするオランダ人の発想には見習うべき点があると思います。

ボクは,「自由」をささえるのは,「先進性」に裏うちされた「平等志向」だと考えます。

「飾り窓」を例にとると,あそこで働く女性たちは圧倒的に「不自由」です。

オランダ人でさえも,ようやく今世紀になって,これまでどこの政府もやらなかった先進的なシステムの導入で
彼女たちが人身売買にもとづく不平等な境遇におちいるのを少しでもくい止め,自由な身になるための土台を
提供しはじめたということなのでしょう。



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もちろん,これは「土台」にすぎませんが,マリファナの合法化などにもうかがえるように,絶対的な悪を隠すことで
とりつくろおうとせず,明るみに出すことで,より民主的な解決法を模索する,オランダ流のリアリズムのあらわれで,
ボクは日本的なタブー化と同調圧力による隠蔽よりも好ましいと考えます。



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ずいぶん話が大きくなってしまいました(苦笑)

オランダを代表する画家レンブラントの代表作『夜警』は群像を描きながら,ひとりひとりの内面をも尊重した画風で
讃えられることが多いようですが,アムステルダムを自転車で走っていると,彼の筆のように,この国は日本よりも
ひとりひとりの「個」と「自由」を大事にしているなあと思ってしまうのです。

ほら,自転車ってしょせんは人力で等身大のエネルギーでしか移動できないでしょ?
でも,その気になれば驚くほど遠くへ自由に出かけることができます。

まるでサドルにまたがって生まれてきたかのように,街を自転車で軽快にゆきかうオランダの人々を見ていると,
その「自由」をていねいに育ててゆくことの大切さを直感的に知っているように感じるのですね。

今回アムステルダムでいろいろ食べて美味しかった中で,ボク的にNo.1は名物のニシンを食べさせる小さな
お店だったのですが,そこのオヤジさんが大らかで親切でとても優しそうでした。

あの人にボクのこの意見を話したら,何ていわれるかなあ?



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「そりゃあんた,自分が自転車好きだから,自転車に乗ったオランダ人をひいき目で見ただけだよ」って
言われそうですが(笑)

また行ってみよっと。




Commented by どんなべ at 2018-09-04 18:03 x
ぺだるさん、オランダ、ベルギー旅行はうらやましい。最近は、国内で開催された、フェルメール展の図録2つやルーベンス展の図録を読み直している最中です。レンブラント展には行ったことがなく、「夜警」も含め見たい!伊から蘭へ、芸術はパトロンの盛衰に寄る所大きいのを感じます。
Commented by ペダル at 2018-09-05 06:17 x
どんなべ画伯さま,コメントありがとうございます!
ご自分で描かれるようになると,絵の見方も変わるんでしょうね。
おっしゃるとおり,パトロンの盛衰は画題などへの影響がすごく大きいと思います。また後日書きますが,パリのある美術館はまさに20世紀のそれを体現していました。ドガ,マネなどのパトロンの屋敷跡。所蔵品はナチスに略奪されたetc.とより美術の背景がリアルに感じられました。
by pedalweb | 2018-09-02 16:18 | 旅の話 | Comments(2)