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わきまえないで行こう! 〜森会長の「失言」の先に見えるもの〜

東京五輪組織委員会の会長・森喜朗氏の「失言」が大炎上していますね。EU圏の国々の駐日大使館からもtwitterなどで抗議の声が
あがるほどの燃えっぷりです。


森さんといえば首相時代から失言で有名な方ですが,いくつか気になることがあったので,あの言葉の背景などを考えてみました。



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*昨年9月の『ラファ・ウィメンズ100神戸』にサポートスタッフとして参加して,いろいろ学ぶことがありました。



1)なぜ失言で有名な森氏を世紀の大イベントのトップにすえたの?その背景は?

いろいろ調べてみてわかったのは,けっきょく長い議員歴の中で彼が「スポーツ振興」にそれなりに大きな貢献をしてきたこと。
IOCともそれなりのパイプがあることが大きい。
  
また,ゼネコン族議員のドンであり,巨大イベントの開催調整をスムーズに進める手腕(コネ)があること。

この2つが主な理由のようです。もちろん他にも自民党がらみの事情があるのでしょうが。

そして,こういう失言での大炎上の場合,理由の多くは過去のご本人の成功体験を新しい未知の状況にあてはめて乗り切ろうとして,
それが裏目に出たものであることが多いけれど,その点で森さんはとても興味深い人でした。

石川県の田舎町の町長の息子として育ち,早大ラグビー部に憧れ上京して入部したものの高いレベルについてゆけず,健康上の理由も
あって退部。雄弁会(弁論部)に入部。卒業後は新聞記者をへて自民党から出馬etc.

そして2000年には第85代の内閣総理大臣となるのですが,当時の政調会長の人物評がわかりやすいです。

「森みたいなのが総理になれた総理になれたんだという人がいるが,森が総理になれたのはスバリ他人への配慮だ。人に対して
配慮するのが物凄く上手かった」(亀井静香)

やっぱり!という感じです。彼が組織委員会の会長をまかされているのは「人望」があるからなのですね。

もちろん,それは東京五輪によって利益恩恵をうける人たちのいわば「内輪」での人望です。

大ざっぱな言い方をすると,長きにわたり,前総理の安倍さんよりもずっと「地元」や「業界」への貢献度が高く,並みはずれた
バイタリティを自分が定めた対象への献身に注ぐことができる人物。
  
その意味では,ある程度の大局観も無私な献身の姿勢も備えた人なのでしょう。

ただ,いかんせんそれは「内輪」での話ですね。
 
「いま大炎上している女性蔑視の発言は,意図的に切り取られたもので前後を読めば彼が女性を持ち上げているのがわかる!」
  
そんなふうに彼を擁護する意見もありますが,五輪組織委員会の会長の発言ともなれば,そういった「内輪の外側に」いる人々への配慮が
発言のどこを切り取っても見えなければなりません。

自分とは帰属集団がちがう立場の人々に対する配慮があってこそ,現代のオリンピックは成立するのですから。

「人に対して配慮するのが物凄く上手かった」森さんが大炎上しているのは,何よりもまず「ダイバーシティの理解(他人が思いがけず
さまざまな集団に帰属することへの想像力)」が決定的に欠けているからだとわかります。

少なくともいまのままの森さんの感覚だと,とてもじゃないけど異文化異民族を束ねるイベントにはふさわしくありません。



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2)では,今回の「失言」のどこが一番ダメな点?

もう多くの人がさまざまな立場から彼の言葉への批判的な分析を提示されていますが,「男」の立場にいるボクから見た場合でも
「(場の空気を)わきまえない女性たち」という彼の切り口にあらわれている価値観が一番まずいと感じます。

これは英訳するとそのまずさがさらにはっきりします。

彼が暗黙のうちに示している「わきまえる」はものすごく日本的な談合と調整の姿勢をあらわした言い方ですが,異文化の文脈,
たとえば英語の表現におきかえると,'Know your limit'(身のほどを知れ)となるのです。

これはズバリ差別される側に対しては抑圧のフレーズで,英語世界ではまさしくさまざま差別の歴史を想起させる表現だそうです。
  

森さんが一方では女性を持ち上げているという擁護があるとしても,そもそも参加者が「既得権益」への貢献度に応じて発言の量を
決められてしまうという会議ってロクなものでしょうか?生産的になりえますか?

「内輪」の利益に沿って議論の方向性が決まった状態で,最初から結論ありきで五輪のような一大イベントの開催を決めようとする姿勢は,
コロナ禍の状況ではリスクだらけのポンコツであるのは,今回の失言のひとつ前の森さんの発言をまたずして自明ですね。

現代の五輪が背負っている「多様な世界の融合」という,文化イベントとしての側面を考えた場合に,そこに至るまでの合意のプロセスが
あいかわらず致命的にヤクザな体質のものだというのは大問題です。親分,退場!となっても仕方ありません。



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3)そもそもこの状況で東京五輪は日本社会にプラスなのか?

お金の話から言うと,すでに東京五輪開催のための費用は去年末の時点で3兆をこえると発表されています。

これには1年の延期費用やコロナ対策のための費用も含まれていますが,過去最高額をかけたロンドン五輪をうわまわる金額となり,
しかも今後のコロナ感染対策の不透明な状況から,さらに膨らむと予想されています。

そもそもの計画では4分の1以下の7344億円だったはずなのに,ですよ。

一方で,「いや中止になった場合の経済損失は,放映権料などを中心に,7兆円をこえる。中止なんてとんでもない!」という
中止反対論も根強くあります。


この反対論が五輪に伴う経済効果としているものの多くはいわゆるインバウンド効果なのですが,野村総研による調査などを見ても,
コロナ禍のもとで,もうこの効果は期待できないという予測がリアルに出ています。

おやおやという予測ですね。

とどのつまり,五輪開催の大義は「東日本大震災からの復興」「コロナの克服」「コンパクトな五輪の実現」などのようですが,
2021年2月の時点で,どれひとつ満足に達成できていないのではないでしょうか?



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こうして,森さんの「失言」をきっかけにあらためて東京での五輪開催のメリット・デメリットを考えてみると,直近での開催に
こだわらずにいったん中止して,まずはコロナ対策にリソースを集約する方が,長い目で見た場合に,より理想的なカタチでの
「日本五輪」の開催に近づくのではないでしょうか?

経済的な損得の計算はわきに置いたとしても,開催にともなう人的なリソースの利用がただでさえ深刻な医療への圧迫にならない
はずがありませんし。それが長期的には経済にも大きな負債を残すことは容易に想像できるはずです。

今のままの五輪開催って,けっきょくはエリートアスリートや関係企業が中心となる「内輪」ばかりに利益が落ちる談合調整型の
「お祭り依存型経済」そのものの延命です。



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世界最速のペースで少子高齢化が進み,社会全体の没落をこれからどう食い止めるのか真剣に考えることこそが日本の最大の課題と
なっている時代にそんな延命に意味があるのでしょうか?

女性・子どもたち・エリートではないふつうのアスリート・何よりもいまコロナで生活に困っているふつうの市民にこそまずは
時間とお金を使うべきだと思いませんか?

今回の「失言」から,これまで自分自身ボンヤリとしか受けとめていなかった東京五輪の意味をじっくり考えた結果,ボクの
結論は「女性たちだけじゃなく男たちもどんどん『わきまえないで』発言しよう!いったん五輪は中止して,もっと国民の
利益になる形で開催しよう!」となったのでした。

皆さんはどう思われますか?




  

  
  


  

Commented by リキ at 2021-02-08 21:41 x
ペダルさん,こんばんは。

ぼくも書きたいことあって,少し考えていたところなので,いいきっかけをもらいました。締めくくりの「みなさんはどう思われますか」という一文には答えなきゃと思い,今日,ブログの記事を書きました。明日更新する予定です。ありがとうございました。
Commented by ペダル at 2021-02-09 09:17 x
リキさん,おはようございます。

皆さん,それぞれ意見がおありだと思いますが,言わない意見は「意見」じゃないですもんね。

賛否両論いろいろあって良いと思います。

民主国家ですから,誰かひとりどこか一部の大きな声がまかり通るのは良くないですね!

ご意見楽しみです。
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by pedalweb | 2021-02-06 11:58 | 暮らしの中のあれこれ | Comments(2)